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運命 [日々鉄道小景~ショートストーリー]

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「わたしね、人の運命がわかっちゃうんだ・・・」
はるか彼方まで続く鉄路が、赤い夕焼けに染まる風景を見ながら、
彼女はぽつりとそうつぶやいた。
「えっ?」
驚いて振り向いた僕をじっと見つめながら、
「会う人がね、いつどこでどんな人と知り合って、どんな仕事に就いて、誰と結婚して、
そして……いつ死ぬのかも」
寂しそうに笑う彼女の大きな瞳には、天空に広がる茜色の空が映し出されていた。
もしかしたらその瞳の色は、空の色だけではなかったのではないかと思わせるほどに。

秋の終わりの田舎の空は限りなく澄んでいて、ひとすじのうろこ雲がまるで
終わりゆく季節を惜しむかのように地平線の彼方に伸びていた。
遠くの山の端に、今まさに消えんとする夕陽の最後の一しずくを受けながら、
その山に向かって一直線に伸びる眼前の鉄路もまた、赤く輝いていた。

もし、運命というものが存在するのなら。
人はそれに抗うことなど出来ないのかも知れない。
それは、やはりとても悲しいことなのだろう。

そして、
それを否応なく知ることになる彼女の悲しみもまた、
計り知れないものがある、と僕は思う。

普段は子供のように無邪気に振る舞っている彼女の、
それは初めて見せる一面だった。

もし、運命というものが存在するのなら。
それは眼前に広がる鉄路のようなものなのかも知れない。
僕たちが、そこにレールがあることに気づかないだけで、
もうずっと前から、そこにはレールが敷かれているのかも知れない。
列車は深い谷を渡り、高い山を登り、
春の桜、夏の海、秋の紅葉、冬の雪
めぐり行く季節の移ろいの中を駆け抜けながら、
一路、終着駅という名のゴールを目指しているのだから。

それでもなお。
僕は信じたい。
運命を作って行けるのは、他の誰でもない、自分自身だということを。

「僕の運命も分かるの・・・?」
そう問いかける代わりに、僕は彼女の右手を強く握った。
彼女は戸惑いながらも、少し遠慮がちに、それでも力強く、その手を握り返してきた。

僕たちの運命は、この線路のように平坦でまっすぐなものではないかも知れない。
そして、彼女もまたそれを分かっているのだろう。

それでも、僕たちは歩き続ける。
そこにレールがある限り。

・・・・・・終着駅という名のゴールに向かって。

僕たちは、日がすっかり暮れた群青色の空の下、
線路に沿った田舎道を、手を取りあって歩き始めた。

遠くの草陰から、虫たちの鳴き声が聞こえてくる。
空では大きな月が、そしてその隣では宵の明星が、小さく輝いていた・・・・・・


[カバー写真 2010/11/27 久留里線 小櫃-下郡 この物語はフィクションです]

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